楽音合成技術にヒントを得た混雑寿命予測に関する論文が IEEE Accessに採録されました.
本研究では,イベントなどに際してあるエリアが人々でごった返す混雑現象の「寿命」に着目し,混雑がいつ始まりいつ終わるのか,その間どれくらいの人々が往来するのかを予測する「混雑寿命予測」問題に取り組みました.
混雑予測は,快適な移動と公共の安全を確保するために極めて重要な問題であり,近年盛んに取り組まれています.これまでの混雑予測手法では,人々のスケジュール情報に着目し,将来の来訪者数の増加を捉えることで混雑の開始時点での来訪者数を予測することに成功しました.しかし,来場者の帰宅予定が不明であることや,来場者の動きが事前に告知されたイベントスケジュールとしばしば乖離することから,混雑現象の終了までの混雑度の変化を予測することは困難でした.
この問題に対処するため,本研究では,混雑の開始とその経時変化を予測するための新たな枠組みであるVersatile Acoustic Tri-state Envelope Segmental LSTM (VATES) を提案しました.我々はまず,スポーツや展示会といったイベントの開催目的が,混雑の経時変化パターンに影響を与えると考え,目的別に経時変化をモデル化する技術として,楽器音の合成技術であるシンセサイザーに着目しました.我々は標準的なLong Short Term Memory(LSTM)モデルを,シンセサイザーの基盤技術であるADSRエンベロープの概念で拡張し,群衆を音と見立てた時の,音量の変化を単純な状態遷移で表現することで,混雑の経時変化パターンの予測を実現しました.
我々は,提案手法を2つのデータセット(合成データセットと実世界の移動データセット)で評価しました.その結果,提案手法は 24.3%の性能向上を以て混雑パターンを予測し,また混雑の開始時刻と終了時刻それぞれの予測性能を6.6%と26.1%向上することを実証しました.
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Publications
S. Anno, K. Tsubouchi and M. Shimosaka,
Forecasting Lifespan of Crowded Events With Acoustic Synthesis-Inspired Segmental Long Short-Term Memory.
IEEE Access, vol. 12, pp. 87309-87322, 2024, doi: 10.1109/ACCESS.2024.3417509.