近年都市から集積された多種多様なデータを活用することで,都市の特性を定量的に把握する試みが注目を集めています.中でも,都市の景観に対して人々が感じ取る印象や知覚が定量化されれば,来訪者の誘致を目的とした都市開発や,人々に好まれる街づくりなど様々な恩恵をもたらすことが期待されます.
これまでの取り組みでは,都市各地から撮影されたある特定の景観画像に対する人間の知覚の解析が行われてきました.
しかしながら,実際の都市現地に対する印象の形成には特定の物体や景観の存在が強く影響することが示唆されており,人間は特定の景観に強く着目したうえで都市に対する印象を判断しているものと考えられます.従って,先行研究の取り組みは都市現地に対する知覚の解析としては不十分であり,実際の都市から感じ取れる知覚を正しく解析するためには,まず人々の知覚に影響する景観の視点を特定することが必要不可欠となります.
本プロジェクトでは,この課題に取り組み,人々が都市各地点を来訪した際に感じとる知覚を定量化するための枠組み,Geospatial Scouterを提案しました.
提案する枠組みでは,人間が感じとる知覚のうち「雰囲気」に着目し,まず景観画像から感じとれる雰囲気の良し悪しを画像処理技術を活用することで定量化します.
次に,都市各地点から複数の視点より景観画像を撮影し,各視点が人々の知覚の認知に影響する強さを考慮したうえで,都市現地から感じとれる雰囲気の良し悪しの推論を行います.提案手法では,景観の画像に基づいた特徴量に加え,都市の地理的特性を考慮することで,撮影地点ごとに人間の知覚の認知に強く影響する視点を考慮することを実現します.
多数の人々の意見を反映した,都市景観から感じとる知覚のデータを用いた実験により,提案手法が都市における雰囲気の高精度な推論を実現することを実証しました.
また,提案手法による推論結果を活用することで,都市から感じとれる雰囲気の大域的な分析,および各地点の雰囲気の詳細な解析といった多様な応用可能性の検証を行いました.
Publications
久保田 祐輝, 安納 爽響, 坪内 孝太, 下坂 正倫.
景観画像と地理的特性を考慮した都市における雰囲気の定量化.
情報処理学会研究報告 第78回UBI合同研究発表会, 東京都大島町, 5 2023.