現在,屋内に存在する人々の位置情報を漏れなく把握することが,三密や,接触者のトラッキングの観点から重要になりました.
この技術の実現のために,今まで研究されてきているデバイス自体の測位でなく,デバイスを保持せずとも測位が可能な技術の需要が高まっています.今まで,動画や熱画像といったデータを用いた屋内位置の特定が今まで行われていますが,これらは位置情報以外のプライバシー情報が多く含まれるなどの問題が残り,設置が難しい環境が存在します.
そこで,現在プライバシーを考慮したデバイスフリー測位として,電波を用いた屋内測位手法が多く研究されています.これは電波の信号特性を観察しても他の個人情報を類推することができないため,プライバシーの問題を解決したと言えます.しかし,現状Wi-Fi CSI (Channel State Information)と呼ばれるWi-Fi信号の周波数や位相,位相差といった,特殊な情報を用いる方法がほとんどであり,取得に特殊な機材を必要とするため,実用が難しいのが現状です.
本プロジェクトでは,新たなデバイスフリー屋内測位手法として,Wi-Fi RTTを用いたデバイスフリー複数人屋内測位手法 [1]を提案しました.RTT (Round Trip Time)とは,Wi-Fi信号の通信時間を用いて距離測量を行うプロトコルであり,IEEE 802.11mcに規格化されている,かつ,時間情報なので特殊な機材を必要としない特徴を持っており,近年デバイスの屋内測位で注目され始めた技術です.提案する技術はWi-Fi RTTプロトコルの新たな応用であり,今まで端末の測位のみに着目されていたRTTの可能性を広げるものとなっています.
しかし,Wi-Fi電波は環境中のマルチパスの影響を受けやすく,そのノイズの処理が課題となっています.そこで,本プロジェクトでは,UWBを用いたデバイスフリー屋内測位手法 [2]の提案も行いました.UWB (Ultra Wide Band)は超広帯域無線と呼ばれる無線技術であり,マルチパスに強い電波としてよく知られており,Wi-Fiと同様に通信時間による距離測定が可能です.この提案により,Wi-Fi RTTを使用した手法 [1]と比べて測位精度の向上を確認しました.
また,既存のWi-Fi RSSIを使用したデバイスフリー屋内測位手法[4]と比較し,Wi-Fi RTT[1],UWB[2]を用いた手法は共に高精度に測位ができることも確認しました[3].
本プロジェクトでは,電波送受信器を複数設置した環境で,それらの通信を人が障害物として妨害することによる電波状態の変化を利用した,屋内測位システムを構築しました.この測位システムでは,1人が環境にいるデータのみの学習で,複数人の測位を実現可能であり,実用性の高い手法となっています.
Publications
Wi-Fi RTTを用いたデバイスフリー複数人屋内測位
情報処理学会研究報告 第67回UBI合同研究発表会, オンライン開催, 9 2020. [2]野村 篤史,須ヶ﨑 聖人,坪内 孝太,西尾 信彦,下坂 正倫.
UWBの測定距離と直接波の減衰度を利用したデバイスフリー複数人屋内測位
情報処理学会研究報告 第74回UBI研究発表会, 福岡県北九州市 及びオンライン開催(ハイブリット形式), 6 2022. [3]Atsushi Nomura, Masato Sugasaki, Kota Tsubouchi, Nobuhiko Nishio, Masamichi Shimosaka.
Device-free multi-person indoor localization using the change of ToF, The 21st International Conference on Pervasive Computing and Communications (PerCom 2023)
–Related work–
[4]M. Youssef, M. Mah, and A. Agrawala, Challenges: device-free passive localization for wireless environments. In Proceedings of the 13th annual ACM international conference on Mobile computing and networking (MobiCom 07)